学術博士のロジカルなつっこみをかるくいなす詩人
 そして、ふたりの巻き戻せないかさぶたをひっかき、暴露
To: 橋本敬
From: 上田假奈代
Date: Thu, 21 Feb 2002 23:55 +0900
Subject: 梅がほころんでいるのに雪。
前略

梅がね、とびきり
くっきりした色で咲いているっていうのに
雪が舞っています。

まっすぐに春 とはいかないようです。

いただいたメールを読みかえしながら
「コトバの化石」という、この世にないものを
想像して夢想して、ほくほく喜んでいます。

それは、てのひらのようなかたちだったのかしら。
それは、枯れてしまったおおきな木のおおきな葉なのかしら。

連綿とつづく時間のなかで
ことばは、いつ生まれていたのでしょうね。

ひとが誰かに語りかけたい、と強く念じて生まれたのでしょうね。

いちばん最初の誰か、は誰だったんでしょうね。
神さま、精霊。祖先。家族。近所に住む友人。それとも愛する人。
食料となる木々や動物たちだったのでしょうか。

エディンバラでは、1年間の研究だっておっしゃてたわね。
もうすぐ半年がたつね。
日本に戻ってからはまた金沢の大学院大学で、
そういったことの研究をつづけて、教授として教えていくの?

そのひとたちと日常会話してたら
なんだか、へんてこな会話になったりするの?
「このコトバの先祖は○○じゃないの?」とか。

詩人同士で喋ると
たしかに時々、コトバのことでもりあがることはあるのだけれど
わりと、みなさん奥ゆかしいので、そんな機会はあまりないのよ。

せいぜい、この漢字の意味はこうなんだ、と難しい漢字に、深くうなづいていたり。
この言い回しは、誰々の詩や小説の引用なんだよ、その背景は、、、とか。
もっともこんな詩人たちは、わたしのまわりだけのことかもしれません。

今や、詩人サイト16万件。
日本は詩人の宝庫かもしれないのです。



ところで、あなたとはじめて逢ったころのことを
思い出しています。

郡山の高校の、生徒会室だか、高校の坂道だったかしら。

あなたが3年生で、わたしがまだ1年生でしたね。
白状すれば「先輩」なんですよねえ。

この前、郡山に行ったのよ。
郡山高校じゃなくて、市役所の市長に逢いに出かけたのだけどね。

雨の降っていた郡山は、なんだかもの悲しくて。
こどものときからわからなかったわ、記憶はどこにいくのか。
ひとりで歩きながら、やっぱりわからないまま。

文化祭のフォークダンスを抜け出して、
遊廓の場所へ出かけていったよね。

2階の木製ベランダから、黒髪を垂らし、はだけた着物の女の人が
団扇をはたはたさせているような、そんな幻をぼんぼりの灯のなかに見た。

それは誰かの記憶で、現実のものではないとわかっていたけど
いまも覚えている。

路地では、呼び込みのおばさんに、こんなところになにしに来てるんやって
じろじろ眺められてたよね。

車窓の風景にある風を
窓を隔てて知っているのは、経験なのか、想像力なのか。
わたしの車窓には、このところ強風が吹いております。

ついでにもうひとつ白状すると、わたしの
親に内緒、男と外泊は、としをちゃんが最初だったの。

大阪のミナミの三角公園で、
ひんやりした石に腰かけて並んで朝を迎えましたね。

大阪の朝は、清掃車からはじまるんだって
街には街の朝のはじまりかたがあるんだって、わかった。

朝のはじまりかたの新鮮さを知ったので
今でも時々は、誰かと朝を迎えたいなと思う幸せな経験だったわ。

エディンバラの朝のはじまりは、どんな感じかな。

としをちゃんは
いまごろ トウキョウかな。カナザワかな。

三寒四温の時節がら
エディンバラよりはあったかいとおもうけれど
風邪などひかないようにね。

かなよ

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